自転車の修理をお願いした時に、頼んでもいない修理をして代金を請求してくる事例を時々耳にする。
例えばパンクしたからパンクを直してほしいとお願いしたとする。
パンクした場所が直っていることは当たり前として、チェーンがもうダメだから交換しておいたから代金を支払うようにというものだ。
このような時に、代金を支払う義務はあるのだろうか?
勝手に修理されることの意味
パンクしたからパンクを直してほしいとお願いすることは、当たり前の話。
それ以外の修理はお願いしていないのに、自転車店が何の断りもなく勝手に修理した場合はどうなるのだろうか?
これは民法でいうところの事務管理に当たる。
(事務管理)
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
事務管理の場合、報酬請求権はない。
勝手にお節介で始めた修理だから、報酬を請求することは原則としてできないルールになっている。
その上、修理を始めたことを遅延なく通知する義務もある。
(管理者の通知義務)
第六百九十九条 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
原則として報酬請求権はないものの、お客さんにとって有益になる修理費用は請求できることとなっている。
(管理者による費用の償還請求等)
第七百二条 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
2 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
3 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。
チェーンが痛んでいて修理が必要だと判断し、それがお客さんの利益になることなら請求できるルールになっている。
そのほか、一度お節介で始めた修理は、勝手にやめることも出来ない(民法700条)。
そのため新しいチェーンになったことのチェーン代は支払う必要が出てしまう可能性がある。
まともな自転車店であれば
しかしながら、勝手に頼んでもいない修理をして代金を払うように言われても、現実的にはトラブルになってしまう。
お客さんとしても頼んでもいない修理をする前に一言掛けてほしいと思うのが本音だろう。
法律上も、遅延なく本人に通知することとなっており、お客さんの意思を確認しないまま修理することは現実的ではない。
このような場合、お客さんはしぶしぶ払うことになるだろうが、その一件以降、この自転車店にお願いしたいとは思わなくなるはずだ。
了承を得られないまま修理をすれば、お客さんの意思に反する可能性もあり、まともな自転車店であれば必ずお客さんに確認を取ってから取り掛かる。
筆者も先日、自転車の修理をお願いした。
一通り状況を確認し、どういう修理をするか説明を受けた後、30分後にまた来るようにと言われたので、電話番号を書いて自転車店を後にした。
しかし10分後に電話が鳴り、分解したら違う不具合も見つかったから修理することと、その費用がいくらになるのか説明された。
そこで納得したので了承して修理をお願いした。
これが当たり前の道筋だ。
了解もなく勝手に修理して代金を払えと言われても、困惑してしまう。
自転車修理というのは、まずどういう不具合が出ているのかについて、お客さんと自転車店が立ち会って、お互いに確認することから始まる。
お客さんが感じている不具合がどういうことなのかについて、その場で自転車店が検査していく作業だが、医者でいうところの問診と検査に当たる。
立ち合いを求めずに修理しておいてと言われても、不具合の意味を取り違えるリスクがある。
だから自転車修理の場合には、問診と検査までは立ち合いが必須になる。
立ち合いを求めない自転車修理店や、了解なく勝手に修理する自転車店はトラブルに巻き込まれることもあるため、お客さんのほうも見極めて選ばないといけない。